人革速報

新人間革命での池田先生のご指導に学ぶブログです。

新人間革命 大山(54)|2017年3月7日

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最後に十条潔は、胸の思いをありのままに語っていった。
 「私自身、山本先生のこれまでの指導を深く心に刻み、模範の実践を展開していくとともに、組織の最前線で戦ってこられた皆さんから、信心を学んでまいります。
 したがって、どうか会長だからといって、私のことを、『先生』などと呼ぶようなことはしないでいただきたい。厳粛なる歴代の創価の師のみが『先生』であります。
 私に対しては、『十条さん』や『十条君』で結構ですし、呼び捨てでもかまいません。共に同志として、平等に、異体同心の団結で切磋琢磨しながら、新しい前進を開始してまいろうではありませんか!
 ともかく私は、皆様が安心して朗らかに仏道修行に励んでいかれますように、“会員奉仕”に徹してまいりますので、どうかよろしくお願い申し上げます」
 彼の真摯で率直な話に、皆、さわやかな共感を覚えた。信心指導とは、高みに立って同志を教訓することではない。リーダー自らが一個の人間として、決意と情熱と行動をもって進むべき道を指し示し、共感をもたらしていく生命の触発作業にほかならない。
 創価の新しい前進の歯車は、山本伸一が見守るなか、回転を開始していったのである。
   
 翌二十六日、伸一は、静岡県富士宮の宗門の総本山に法主・日達を訪ね、法華講総講頭の辞表を提出した。その折、日達からは、長年にわたり宗門の隆盛に尽くしてきた伸一の功労をねぎらう言葉があり、法華講名誉総講頭の辞令が渡された。
 夕刻、彼は、静岡研修道場へ向かった。殉教の先師・牧口常三郎の魂を刻む道場で、二十一世紀への大飛躍を期すために、具体的に何を成すべきかを、思索しようと思ったのである。
 一つの終了は、新しい出発である。未来への大いなる飛翔のためには、確たる構想と緻密な計画が不可欠である。

新人間革命 大山(53)|2017年3月6日

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山本伸一に続いて、最後に新会長の十条潔がマイクに向かった。彼は、率直に自身の心境を語っていった。
 「数年前から山本先生は、『次はあなたたちが力を合わせて、学会を推進していくのだから、すべてにわたって、力を磨いていくように』と言われておりました。しかし、私は心のなかでは、“先生にずっと会長をやっていただくのだ”と思い、また、辞められることがないように願ってまいりました。
 ところが今回、先生は、『七つの鐘』の終了に際して、勇退を固く心に期しておられたのであります。
 日ごろから先生は、『いつまでも私を頼りにしてはいけない。それでは、広宣流布の永劫の流れはつくれないではないか』とおっしゃっておりました。私どもも、『先生。ご安心ください。私たちがおりますから』と大きなことを言ってまいりました。そして今や、その時が来てしまったのであります。
 まことに非力な、なんの取りえもない私であり、とうていこの任に堪えられるとは思いませんが、皆様方のご支援をいただいて、会員の皆様のために、全力を尽くしてまいりますので、よろしくお願い申し上げます」
 十条は、広宣流布に生涯を捧げた戸田城聖の死身弘法の実践を、また、その弟子である伸一の激闘に次ぐ激闘を、目の当たりにしてきた。それだけに会長の任の重さを肌で感じていたにちがいない。
 「初代会長・牧口先生、第二代会長・戸田先生、そして第三代会長・山本先生の三会長に脈打つ、“法のため、社会のため、民衆のため”という創価学会の大精神と広宣流布への揺るぎない大情熱を、二十一世紀へ引き継いで、安定した恒常的な流れをつくってまいります。私は、新しい気持ちで、自らの信心と弘教への姿勢を正し、第一歩からやり直すつもりで頑張っていきます」
 信心とは、日々発心、生涯発心である。常に新たな心で、“いよいよ”の気概で、精進を重ねていくのが、仏法者の生き方である。

新人間革命 大山(52)|2017年3月4日

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山本伸一の言葉には、次第に熱がこもっていった。
 「広布の旅路には、さまざまな出来事がある。変遷もある。幹部の交代だって当然あります。そんなことに一喜一憂するのではなく、ひたすら広宣流布に邁進していくんです。それが学会精神ではないですか!  
 『未だ広宣流布せざる間は身命を捨て随力弘通を致す可き事』(御書一六一八ページ)との、日興上人の御遺誡通りに進んでいこうではありませんか!
 私は私の立場で、一個の人間として、全精魂を尽くして広宣流布を推進していきます。皆さんも一個の人間としての使命を自覚し、一人立ってください。何があろうが広宣流布に生き抜いていこうという決心が大事です。
 組織というのは、人びとを成仏へ、幸福境涯へと導いていくための手段であり、組織の機構や役職自体に功徳があるわけではない。組織は大切だが、人間に例えれば骨格といえます。その組織にあって懸命に広布のため、友のために活動に励んでこそ、そこに温かい人間の血が通い、皆が歓喜につつまれ、自身も偉大なる功徳を受けることができる。
 したがって、幹部は、組織の上に安住したり、官僚化するようなことがあっては絶対にならない。どこまでも、会員のため、広宣流布のために、異体同心で助け合い、潤いのある、安心できる組織の運営をお願いしたい。
 何があろうが、御本尊の功徳は絶対です。ゆえに、不変の信心で進むことです。決して感傷的になってはいけません。
 ともかく、幸せになってください。ご自身が、ご一家が、皆が幸せになることです。それが私の願いであり、祈りです。そのために日蓮大聖人から、“立派な信心であった。良き弟子であった”と賞讃される、悔いなき前進の日々であってください」
 伸一は、心からの思いを訴えた。
 彼は、皆が“一人立つ信心”の勇者であってほしかった。それこそが、自身の幸福を開き、広宣流布を開く根源の力となるからだ。

新人間革命 大山(51)|2017年3月3日

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本部幹部会で山本伸一は、新会長の十条潔の登壇に先立ってあいさつした。マイクに向かうと、皆、緊張した面持ちで凝視した。
 「そんな怖い顔で睨みつけないで。新会長誕生のお祝いなんだから。それに、私も十九年間、会長として頑張ってきたんですから、笑顔を浮かべて、『お疲れさまでした』ぐらい言ってくれてもいいんじゃないの」
 彼のユーモアに大爆笑が広がった。会場の重たかった空気は、一瞬にして軽くなった。
 伸一は言葉をついだ。
 「『七つの鐘』――ここには、戸田第二代会長の、広宣流布への強い、強い決意が込められていた。それは、この終了までに、広宣流布の大いなる世界的展開の基礎をつくっておきたいということであった。その『七つの鐘』の総仕上げを、御本尊の御力と全同志の健気なる努力によって成し遂げることができました。この席をお借りして全会員の皆様に心から感謝申し上げます。
 一人の指導者がいつまでも指揮を執っていることは、永続性を維持していくうえで、どうしても改めていかなければならない。その意味から、未来を展望し、今回の新たな出発となった次第であります。
 十条新会長は、私よりも少し年上です。年齢の下の人にバトンタッチする方が自然かもしれませんが、学会の組織は大きい。したがって分別盛りで、学会の草創期から共に苦労して歴史を築いてきた人が会長に選出され、大変に嬉しく、安心いたしております。
 新会長は、非常に几帳面で責任感が強く、公平であり、体も人一倍頑健です。
 一方、森川新理事長は、私や十条新会長の先輩でもあり、一緒に戸田先生の後継を担ってきた一人です。あまり目立たなかったが、信心の姿勢は抜きん出ています。
 どうか、新会長、新理事長を中心に、異体同心の信心で大いなる奮闘をお願いします」
 大聖人は「異体同心なれば万事を成じ」(御書一四六三ページ)と記されている。この御文にこそ広宣流布実現の要諦がある。

新人間革命 大山(50)|2017年3月2日

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激動の一夜が明けた四月二十五日――「聖教新聞」一面で、「“七つの鐘”を総仕上げし新体制へ」との見出しで、新会長に十条潔、新理事長に森川一正が就任し、学会は新体制で出発することが発表された。また、会長を辞任した山本伸一は名誉会長となり、併せて宗門の法華講総講頭も辞任することが報道されていた。
 さらに、「全国会員の皆様へ」と題して、伸一のメッセージが掲載されたのである。
 その中で彼は、前日の県長会で発表された三点にわたる会長勇退の理由を述べた。そして、新たに到来する一九八〇年代を展望し、「社会、世界に、信頼と安定の創価学会をば、新会長を中心に立派にもり立てていただきたい」と訴えたのである。
 何度も読み返した人もいた。辞任の経緯はわかったが、発表を聞いたのは昨日であり、皆、戸惑いは拭いきれなかった。
 この日、午後一時半から、信濃町の広宣会館(創価文化会館内)で、「七つの鐘」総仕上げを記念する四月度本部幹部会が開催された。いつもなら参加者は喜々として集って来る。しかし、皆の表情は硬かった。
 “これから、山本先生はどうなってしまうのか”“学会はどうなってしまうのか”
 そんな思いが、心に不安の影を投げかけ、皆の顔から笑みを奪っていたのだ。
 参加者が会場に入ると、普段とどこか違っているように感じられた。いつも会長のスピーチのために、前方に向かって左側に用意してあるテーブルとイスがなかった。そんなことも、寂しさを募らせるのである。
 やがて伸一が入場した。歓声があがった。
 伸一は、悠然と微笑みながら言った。
 「さあ、万歳を三唱しよう。学会の新しい出発だもの。威風堂々と進むのが学会だ。師子は、いつも師子じゃないか!」
 力強い声に勇気が湧いた。一人の闘魂が、皆の闘魂を呼び覚ます。御聖訓には「一の師子王吼れば百子力を得て」(御書一三一六ページ)と。元気な「万歳!」の声が響いた。

新人間革命 大山(49)|2017年3月1日

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四月二十四日の夜更け、山本伸一は日記帳を開いた。この一日の出来事が、次々に頭に浮かび、万感の思いが込み上げてくる。
 “本来ならば、二十一世紀への新たな希望の出発となるべき日が、あまりにも暗い一日となってしまった。県長会の参加者も皆、沈痛な表情であった……”
 彼は、今日の日を永遠にとどめなければならないと、ペンを走らせた。
 日記を書き終えた時、“ともかく人生ドラマの第二幕が、今開いたのだ! 波瀾万丈の大勝利劇が、いよいよ始まるのだ!”と思った。そして、自分に言い聞かせた。
 “荒波がなんだ! 私は師子だ。広宣流布の大指導者・戸田先生の直弟子だ。
 新しい青年たちを育て、もう一度、新たな決意で、永遠不滅の創価学会をつくろう!”
 闘魂が生命の底から、沸々とたぎり立つのを覚えた。若き日から座右の銘としてきた一つの言葉が、彼の脳裏を貫いた。
 ――「波浪は障害にあうごとに、その頑固の度を増す」
 この夜、各地で緊急の会合が開かれ、伸一の会長勇退と新体制の発足が伝えられた。
 関西では、登壇した幹部が、かつて戸田城聖が理事長を辞任した折、伸一が戸田に贈った和歌を読み上げ、声を大にして叫んだ。
 「『古の 奇しき縁に 仕へしを 人は変れど われは変らじ』――この和歌のごとく、たとえ山本先生が会長を辞めても、関西の私たちの師匠は、永遠に山本先生です」
 すると皆が、「そうだ!」と拳を突き上げたのである。
 また、テレビ、ラジオは夜のニュースで、会長勇退の記者会見の様子を伝えた。
 学会員の衝撃は、あまりにも大きかった。
 しかし、同志の多くは自らを鼓舞した。
 “勇退は山本先生が決められたことだ。深い大きな意味があるにちがいない。今こそ広布に走り抜き、先生にご安心していただくのが真の弟子ではないか!”
 皆の心に、師は厳としていたのである。

新人間革命 大山(48)|2017年2月28日

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山本伸一聖教新聞社を出て、自宅に向かったのは、午後十時前のことであった。
 空は雲に覆われ、月も星も隠れていた。
 これで人生ドラマの第一幕は終わったと思うと、深い感慨が胸に込み上げてくる。
 すべては、広布と学会の未来を、僧俗和合を、愛するわが同志のことを考えて、自分で決断したことであった。彼は思った。
 “これからも、学会の前途には、幾たびとなく怒濤が押し寄せ、それを乗り越えて進んでいかなくてはならないであろう。私が一身に責任を負って辞任することで、いったんは収まるかもしれないが、問題は、宗門僧らの理不尽な圧力は、過去にもあったし、今後も繰り返されるであろうということだ。それは広宣流布を進めるうえで、学会の最重要の懸案となっていくにちがいない。
 学会の支配を企てる僧の動きや、退転・反逆の徒の暗躍は、広宣流布を破壊する第六天の魔王の所為であり、悪鬼入其身の姿である。信心の眼で、その本質を見破り、尊き仏子には指一本差させぬという炎のような闘魂をたぎらせて戦う勇者がいなければ、学会を守ることなど、とてもできない。広宣流布の道も、全く閉ざされてしまうにちがいない”
 未来を見つめる伸一の、憂慮は深かった。
 玄関で、妻の峯子が微笑みながら待っていた。家に入ると、彼女はお茶をついだ。
 「これで会長は終わったよ」
 伸一の言葉に、にっこりと頷いた。
 「長い間、ご苦労様でした。体を壊さず、健康でよかったです。これからは、より大勢の会員の方に会えますね。世界中の同志の皆さんのところへも行けます。自由が来ましたね。本当のあなたの仕事ができますね」
 心に光が差した思いがした。妻は、会長就任の日を「山本家の葬式」と思い定め、この十九年間、懸命に支え、共に戦ってくれた。いよいよ「一閻浮提広宣流布」への平和旅を開始しようと決意した伸一の心も、よく知っていた。彼は、深い感謝の心をもって、「戦友」という言葉を嚙み締めた。

新人間革命 大山(47)|2017年2月27日

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山本伸一は、記者団の質問に答えて、今後の自身の行動について語っていった。
 「学会としては、世界の平和をめざし、仏法を基調として、さらに幅広い平和運動、教育・文化運動等を展開していきます。私は、その活動に時間をあて、行動していきたいと考えています」
 伸一への質問は続いた。
 「会長交代によって、今後、学会と公明党の関係は変わりますか」
 記者たちの最大関心事は学会と政治との関係にあったようだ。伸一は微笑みながら、「それは、新会長に聞いてもらわないと。でも、これまでと同じでしょ?」と言って、隣の十条潔の顔をのぞき込んだ。
 十条は大きく頷いた。
 「やっぱり、同じですって」
 また、笑いが広がった。
 「これまで同様、学会が公明党の支援団体であることに変わりはないということです。公明党には、いちばん国民のために貢献していると言われる党に、さらに成長していっていただきたいというのが、私の願いです」
 彼は、すべての質問に、率直に答えた。
 午後八時前、記者会見は終わった。
 受付の女子職員が、心配そうな顔で伸一を見ていた。彼は、微笑を浮かべて言った。
 「大丈夫! 私は何も変わらないよ!」
 それから別室に移り、青年部幹部らと懇談した。彼は魂を注ぎ込む思いで訴えた。
 「私が、どんな状況に追い込まれようが、青年が本気になれば、未来は開かれていく。
 弟子が本当に勝負すべきは、日々、師匠に指導を受けながら戦っている時ではない。それは、いわば訓練期間だ。師が、直接、指揮を執らなくなった時こそが勝負だ。
 しかし、師が身を引くと、それをいいことに、わがまま放題になり、学会精神を忘れ去る人もいる。戸田先生が理事長を辞められた時もそうだった。君たちは、断じてそうなってはならない。私に代わって、さっそうと立ち上がるんだ! 皆が“伸一”になるんだ!」

新人間革命 大山(46)|2017年2月25日

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十条潔は、緊張した面持ちで新会長としての抱負を語った。
 「山本第三代会長の後を受けまして、新しい制度による出発となりました。これまでに山本会長は、学会の運営は皆で行っていけるように、十分に指導してくださいました。これからも、学会の進み方に変わりはありません。誠に大任ですが、決意を新たにし、この任を全うしていきたいと考えております。
 今後は二十一世紀をめざし、五年単位の展望で前進してまいります。特に最初の五年は人材の育成に力を注いでいく所存です。そして、二度と戦争を起こさせない、社会の安定した平和勢力に、学会を育てていきたいと思っております」
 そこに、山本伸一が到着した。
 彼は、記者たちに笑顔を向け、「大変にお疲れさまです」と言って礼をし、十条にも会釈して隣に座った。
 すぐに、「現在の心境と会長勇退の理由をお聞かせください」との質問が飛んだ。
 「大きな荷物を下ろしてホッとした気持ちです。ただし、新しい会長中心の体制、これからの前進を見守るという意味では、また新しい荷物を背負ったような気持ちもいたします。ゆっくり休ませてくれないんですよ」
 彼の言葉に、どっと笑いが起こった。どことなく重たかった空気が一変し、十条の顔にも笑みが広がった。伸一は、新体制の出発を明るいものにしたかったのである。
 ユーモアは暗雲を吹き払う。
 彼は、話を続けた。
 「既に説明もあったと思いますが、会長を辞任しようと思った最大の理由は、足かけ二十年という歳月を、一人で最高責任者をしていることは長すぎると判断したことです。以前から、後進に道を譲ることで、新しい活気に満ちた創造もなされると考えてきました。
 また、疲れもたまっています。しかし、私は五十一歳であり、今ならば、まだ皆を見守りながら、応援していくことができます」
 人生は、闘争の連続であるといえよう。

新人間革命 大山(45)|2017年2月24日

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県長会等のあとも、山本伸一は新宿文化会館にとどまり、彼の辞任にいちばん衝撃を受けている婦人部の代表と懇談して励ました。また、来客の予定があり、その応対にも時間を費やした。
 夜には、創価学会として記者会見を行うことになっていたが、既に新聞各紙は夕刊で、伸一が会長を勇退し、十条潔が新会長に就任することになると、大々的に報じた。
 それらの報道では、この日の「聖教新聞」に、伸一の所感「『七つの鐘』終了に当たって」が掲載されたことに触れ、それが「辞意」の表明であるなどとしていた。
  
 記者会見の会場である聖教新聞社には、夕刻から、次々と新聞、テレビ、ラジオなどのマスコミ関係者が訪れ、午後六時過ぎには数十人の記者らでごった返していた。
 午後七時、新会長の十条と新理事長の森川一正、副会長の秋月英介・山道尚弥らが姿を現すと、いっせいにフラッシュが光り、カメラのシャッター音が響いた。
 伸一は、三十分ほど遅れて、会場に行くことにしていた。新会長の十条を前面に立てなければとの思いからであった。
 記者会見では、秋月が、本日の総務会で会長・山本伸一勇退の意向が受理されて辞任し、名誉会長となったと報告。そして、理事長であった十条が会長に、副会長の森川が理事長に就任したことが発表された。
 また、伸一の会長勇退については、「七つの鐘」の終了という学会にとって大きな歴史の区切りを迎え、新しい制度、機構も整い、人材もそろったので、会長職を辞して、平和・文化・教育の活動に力を注ぎたいとの希望が出されたことなどが伝えられた。
 マスコミ関係者の多くは、辞任の情報は耳にしていた。しかし、昨日まで、まだ先のことではないかと思っていたようだ。
 学会が未曾有の大発展を遂げたのは、常に未来を見すえて、先手、先手と、素早く手を打って前進してきたことにこそある。